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鹿児島地方裁判所 昭和58年(ワ)5号 判決

原告

鵜木輝昭

被告

株式会社日本学生会館

右代表者代表取締役兼

右特別代理人

吉元福吉

右訴訟代理人弁護士

和田久

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告株式会社日本学生会館(以下「被告会社」という。)について、昭和五七年一〇月一四日開催された株主総会における、吉元福吉を取締役に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

2  被告会社について、昭和五七年一〇月二六日に開催された株主総会における、米山勲、杉内丈二をいずれも取締役に、吉元敬蔵を監査役に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

3  被告会社について、昭和五七年一〇月一四日に開催された取締役会における吉元福吉を代表取締役に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告会社の株主でかつ取締役である。

2  被告会社は、請求の趣旨記載の各決議が存在すると主張し、その旨記載した各議事録及び登記が存在する。

しかし、右各決議は存在しないので、そのことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の本案前の主張

1  請求原因1の事実は否認し、同2の事実は認める。

2  (本案前の主張)原告は、株式の払い込みをしておらず、訴外上小鶴里二(以下「上小鶴」という。)が被告の名義を借りて払い込み出資をしたもので、原告は名義株主に過ぎない。また、被告会社の昭和五七年五月二九日株主総会議事録には原告が取締役に選任された旨の記載があり、その旨の登記も存在するが、同日被告会社の株主総会は開催されておらず、原告を取締役に選任する旨の決議は存在しない。さらにまた、原告主張の各株主総会は原告の同意のもとに、仮装の各議事録を作成したもので、存在しない決議が存在するような仮装の議事録を作成することに加担した原告が、後になつて右決議の不存在を主張することは信義則上許されない。

よつて、原告は、被告会社の株主でも取締役でもないから、本件訴えの適格を欠き、仮に適格があるとしても、訴権の濫用である。

三  本案前の主張に対する答弁

争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一原告の請求中、請求の趣旨3は、取締役会における吉元福吉を代表取締役に選任する旨の決議が存在しないことの確認を求めるものであるが、かかる、過去に行われた決議が不存在であることの確認を請求することを認めた規定は存在しないし、他に、かかる請求を許すことができる理由は見当たらないから、右請求は許されないことが明らかである。

二そこで、請求の趣旨1、2の株主総会決議不存在確認主張について検討する。

1  原告適格について

(一)  〈証拠〉によると

(1) 原告は、ラーメン店を経営している者であるが、昭和五一年ころ、店の顧客であつた上小鶴から学生会館建設の企画を聞き、同会館が出来上がつた暁には、同会館内で、ラーメン店を開く約束のもとに、被告会社の設立のために上小鶴に協力し、被告会社の発起人になり、また、創立総会では取締役に選任された者である。

(2) 被告会社は、上小鶴が学生の宿泊施設を主体とした建物の建設を思い立ち、同人が中心となつて昭和五五年二月八日に設立した資本金一億円の株式会社で、設立に際して、株式二〇万株(一株金額五〇〇円)を発行したが、上小鶴は、右株式のうち自己名義で二万株、他人名義(原告外九名から名義を借りて)で一〇万二六〇〇株の払い込みをし、実質右合計一二万二六〇〇株を有する筆頭株主となつた。被告会社の定款には、原告が発起人として一万株を引き受けた旨の記載があるが、原告は、右株式の払い込みをしておらず、上小鶴が原告の名義を借りて払い込みをしたものである。被告会社の議事録及び登記によると、原告は、昭和五五年六月三日の第一回定時株主総会で取締役に選任され、右任期満了にともない、昭和五七年五月二九日の定時株主総会において再び取締役に選任(重任)された旨の記載がある。しかし、右昭和五七年の定時株主総会は開催されておらず、当時の取締役であつた上小鶴、原告及び藤井英雄が、そのような虚偽の議事録を作成し、役員選任の登記申請をしたものであつて、原告は、昭和五七年六月二日の任期満了によつて、取締役の地位を失つたが、未だ後任者の選任は行なわれていない。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠は存在しない。

(二)  そうすると、原告は株主でも、取締役でもないが、商法二五八条一項により、後任者の選任があるまで取締役の権利義務を有するもので、かかる立場にあるものも株主総会決議不存在の訴えの原告適格を有するものと解される。

2  訴権の濫用等について

(一)  〈証拠〉によると、

(1) 被告会社は、筆頭株主である上小鶴が代表取締役として実権を握り、原告ら取締役の助力を得ながら運営していたもので、昭和五五年六月三日の第一回定時株主総会以後は、定時あるいは臨時の株主総会も開いたことはなく、前記昭和五七年五月二九日の定時株主総会議事録のほか、昭和五六年一月二六日の臨時株主総会議事録、昭和五七年九月一日の臨時株主総会議事録も原告及び上小鶴を含む当時の取締役が、右各総会が開催された事実がないのに、あたかもこれらが開催され役員の選任決議等がなされたような虚偽の議事録を作成したもので、このような方法で役員の改選や、登記申請をおこなうのが通例となっていた。

(2) ところで、上小鶴は、被告会社創立以来、学生会館建設用地を株式会社大林組から購入すべく、その資金や、会館建設の資金の調達に奔走したが、資金の調達にいきずまつていた昭和五七年八月ころ、吉元福吉を介して株式会社フジ・エンタープライズからの融資の話が持ち込まれ、融資の条件を交渉の末、結局・吉元福吉に経営を委任し、同人と代表者の地位を交替し、同人を連帯保証人とし、大林組から購入する土地に抵当権を設定する条件のもと、同社から三五億円の融資を受けることになり、昭和五七年一〇月一四日同社と同旨の金銭消費貸借契約並びに抵当権設定契約を結ぶに至つた。そして同日、通例に従つて、原告から預かつた印を使用して、請求の趣旨1の内容、即ち、取締役を一名増員し吉元福吉を取締役に選任した旨の臨時株主総会議事録及び同人を代表取締役に選任した旨の取締役会議事録を作成した。同日夜、上小鶴は、役員を集めて、右経過報告をしたが、その際、原告は、残念だがやむを得ない措置として、了承し、また翌一五日に役員が集まった際も、原告は、上小鶴が代表者を辞めるのであれば、自分も辞任する旨の発言をした。上小鶴は、同年一〇月一九日までの間に、株主に出資金を返還し、本田虎男の二〇〇〇株を除いて全株式を取得し、これを吉元福吉に引き渡し、名義株主や役員に対しては名義借料ないし功労金を支払うなどして、被告会社との関係を精算したが、原告及び当時監査役であつた吉迫洋との間では功労金の金額をめぐつて、話し合いがつかず、右両名を役員として残したまま、請求の趣旨2の内容の臨時株主総会議事録を作成し、その登記申請をおこなつて、被告会社の株式及び経営を事実上、吉元福吉に譲つた。

以上の事実を認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして、採用することができない。

(二) 以上の事実によると、原告は、名義株主で、株主総会の決議を左右する立場になく、また、取締役としての任期も満了し、商法二五八条一項の権利義務を有するに過ぎず、株主総会開催を請求する権限もないのに、自己以外の役員選任を内容とする請求の趣旨1、2記載の選任決議の不存在の確認を求める利益は認められないものと解されるし、かつ、被告会社は、第一回定時株主総会以後は、株主総会を開催せずに、上小鶴及び原告ら取締役(原告については、商法二五八条一項)において議事録を作成して、役員の改選等をおこなうのが通例で、原告も取締役としてこれに加担してきたもので、請求の趣旨1、2の決議の内容についても一旦は了承していたし、右通例に従つて、議事録の作成、登記の申請がおこなわれたものであるのに、後に至つて、自己に都合が悪いと考える決議だけを取りあげて、その不存在の確認を求める本訴請求は訴権を濫用するものと言わざるを得ない。

三よつて、原告の本件訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官赤塚 健)

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